隠語

2014/09/03


すったもんだの新婚旅行(前回記事、前々回記事)から帰国後、土産を配り仕事に戻りました。


当時の担当は名古屋のお客さまだったので、何かトラブると急遽

新幹線で東京から現地に駆けつけるということも幾度かありました。


そういう環境の中でしばらく経つと、また波がやってきました。

今まで落ち着いていた妄想が、出張中のあるトラブル会議の最中に

突然襲ってきたのです。


そうです。また会議の参加者らが隠語(または暗号)を使って会話

しているものと思えてしまったのです。

私はその場をなんとか凌ぎ、本社に持ち帰ったトラブルも対処しま

した。


しかし今度の再発は、隠語(暗号)を用いた意思疎通と、監視社会

を忘れかけていただけに、やはりそうだったのかという衝撃は

仕事を続けるにはあまりに大きいものでした。

そうして今回は、自ら休職を願い出ました。



約1年振りのデイケア通いとなりましたが、相変わらず懐かしい顔

がありました。

前回投薬を拒んだ時に先生から「再発するよ」と脅されていたので、

今度ばかりは薬を受け入れざるを得ませんでした。


薬を飲むと今まで敏感だった神経が鈍るような感覚でした。

デイケア参加者とも「隠語」「暗号」を交えず素で会話できました。


しかし感覚が鈍ると同時に、今まで四六時中張りつめていた緊張の

糸が切れたかのように、何もする気が起きなくなったのです。


プログラムに参加するのが精一杯の状態でした。

それどころか、電車に乗って通うことさえ億劫になってきました。



果たしてこの状態で復帰することができるのでしょうか?





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2014/08/29


これを読まれている方は、すでにデイケアに通った経験をお持ちの方も

多いと思いますが、ご存じない方を想定して少し書いておきます。


あらかじめ断っておきますが、以下は一般的なものではなくあくまで

私自身が通っていたクリニックの体験に基づいています。



デイケアは週月曜日から土曜日までの6日間、朝9時半から始まり、

昼食を挟んで夕方4時ころに掃除を済ませて終わります。


半日に1つのプログラムが決っているので、1日に午前と午後の2つの

プログラムがあり、1週間で12のプログラムをこなす事になります。



デイケアには、ケースワーカーや看護師、看護師のインターンなどが

見守るほかに、プログラムによっては講師もいらっしゃいます。



プログラムの例を挙げれば、書道、俳句、音楽(1つの曲を聴きイメージ

したことを文章にし発表する)、美術(デッサンなど)、英語、中国語、

料理、奉仕活動(近隣のゴミ拾い)、スポーツ、時には、茶道、色々な

施設見学など実に多彩です。季節の節目には、イベントもあります。


各プログラムは、体調により参加・不参加は自由です。



そのクリニックには、重症な患者が何人も通って来ていました。

中には5年以上も通っている人もいました。卒業していく人は少なく、

リストカットを繰り返す人や、OD(オーバードーズ)によって命を

落とす人もいました。



私はといえば当時、デイケアは監視社会や隠語でのコミュニケーションに

不適応な人が来るところだと疑っており、それに適応するように訓練する

場だと思い込んでていたので、相変わらず神経をすり減らしながら参加し

ていました。


しかも最初に投薬を断っていたので、今思えば復帰訓練もなにもあった

ものではありませんでした。





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2014/08/28


このころになっても、異変の原因が自身で仮説を立てた3つの原因

どれかは特定できていませんでした。場合によっては、3つすべてが

原因かも知れないとさえ考えていました。


当時はまだ妄想という自覚(病識)はまったくなく、(関係妄想や

注察妄想という)現実のなかでどう行動してゆくべきかに四苦八苦

していました。



実は現実の社会は、当然のように盗聴器や隠しカメラが仕掛けられて

いて常に誰かに監視されているので、どこかの共産主義国のように自由に

発言・行動できない仕組みになっているのでは?


そして誰もがそれを知っているけれどそれをさとられないように、隠語を

もちいたりボディランゲージで対話を成立させているのでは?


と考えるようになっていました。


「壁に耳あり障子に目あり」とはこういうことだったのか、などと変に

解釈したりしました。



あるとき課長に、「少し休みを取った方がいいのでは?」と気を遣って

頂きました。きっと言動が不自然だったのでしょう。


今は亡き父に連れて行かれたのは、副都心のクリニックでした。

そこは精神疾患とアルコール中毒、それに老人性痴呆症を扱っていました。

アルコール中毒患者の中に、反社会的勢力の一人と思しき患者も見られ

たためか、ここは裏社会と通じているなと思い込んでいました。



院長の診察を受け、統合失調症を疑う質問(盗聴器が仕掛けられていると

思うか、テレビで自分の事を言っていると思うかなど)をいくつか訊かれ

ましたが、監視社会を公言すれば治療という名のどんな制裁を受けるか

恐怖だったので、すべて否定しました。


また、薬も拒否し自力で直す考えを宣言しました。


診断の結果、翌日から3か月の休職を命じられました。



そしてその間、デイケアという社会復帰訓練に朝から夕方まで通うことに

なったのです。





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2014/08/25


次第に妄想や幻聴が酷くなっていきました。


しかし当時はそれが妄想や幻聴だという認識はなく、相変わらず何かの

異変だと思っていただけでなく、ましてや統合失調症の兆候などとは

微塵も考えていませんでした。(当時は、統合失調症は「精神分裂病」

と呼ばれていました。)


例えばこんなことがありました。

会社から自宅に帰ると同時に、家族が見ていたテレビのバラエティ番組

からどっと笑い声が上がりました。ウチに上がると、テレビから「まぁ

まずは座れや」などと言うのが聞こえてきます。私はてっきり家の中に

盗聴器や隠しカメラが設置されていて、私の行動が監視されているもの

と思ってしまいました。これは典型的な注察妄想と呼ばれるものです。


またこんなことも。

会社でデスクワーク中に、課長から自分の名前が呼ばれたので返事をし、

課長のもとにいくと、呼んでいないと言われました。言うまでもなく

幻聴といわれる幻覚です。


はたまたこんなことも。

同僚と飲みに行った時の事、歓談していると周囲にいる他の客が私たちの

ことを何やら噂しているらしいのです。ところが、同僚はそんな事はない

と言って取り合ってくれません。これは関係妄想です。


あるいは、他の人が仕事中に会話をしているときも隠語(私はそう疑って

止みませんでした)を用いて私のことを話題にしていると思える事が頻繁

にありました。


しまいには、周りが常に気になり仕事が手に着かなくなりました。

プライベートでもどこに盗聴器や隠しカメラがあるか分かったものでは

ないので気を抜くことができません。


これが精神疾患の一種だという自覚が全くないことが、悲劇に拍車をかけ

ていくのです。


下記にご紹介する本は、統合失調症についての書籍の中でも患者本人が執筆した
数少ない本のひとつです。 著者の精神状態の変化や、世の中をどう見ていたかが、
分かりやすく詳しく書かれています。



ボクには世界がこう見えていた


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